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地平線の向こうに見えるもの・・。

人間は文明を作ることで自然の厳しさから逃れ、安楽に暮らすようになった。

それはそれで結構なことだが、そのために生きるということは鮮明な喜びではなくどこかぼんやりとした曖昧なものになった。

早い話が、ぼくたちは雪原を歩いてゆくオオカミの姿を遠くから見ることがなくなった。

地平線にかすかに見えている飢えの恐怖によって日々の暮らしを引き締めることがなくなった。

生きることの手応えを失った。

目前の風景の向こうに霊的な風景を見ることがなくなり、それを補うために怪しい宗教をたくさん発明した。

つまり代替物ばかりの、無理に無理を重ねた生活をしている。

すべて自然に任せていれば安心だったのに、小ざかしい知恵でそこから出てしまった。

そして、そんなはずではなかったと思っているが、どこでどう間違えたのかどうしてもわからない。

(池澤夏樹・ 星野道夫著「旅する木」のあとがき より抜粋)


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